和漢診療科についてご紹介いたします

COLUMN医療コラム

キービジュアル

和漢診療科についてご紹介いたします

2020/07/02

執筆者:和漢診療科 部長 地野充時医師

「和漢診療」という言葉を聞いたことがありますか?耳慣れない言葉かもしれませんが、実はこの言葉は岩波書店の広辞苑(第六版)に載っています。
そこには、「和漢の医方に現代西洋医学の視点を組み合わせた診療」と解説されています。これだけでは何となく分かったような、分からないような印象を受ける方も多いかと思いますので、少し詳しくお話してみたいと思います。

日本では江戸時代までは漢方医学が医療の中心をなしていました。しかし、明治時代になると西洋化・富国強兵をめざす政府の方針により、医師になるためには西洋医学の試験に合格しなくてはいけないことになりました。そのため、漢方医学は急速に衰退し、西洋医学が医療の中心となったのです。したがって、現在、当院を含め日本のほとんどの病院では西洋医学を中心に診断および治療が行われています。
西洋医学は、色々な検査により原因を追究し、それに対して治療を行うというスタンスを持っています。様々な西洋医学的治療の発達により、以前では不治の病とされていた病気も克服できるようになってきたことは素晴らしい西洋医学の進歩と言えます。
しかし、西洋医学が急速に進歩してきた反面、医療現場では逆に様々な問題も出現してきてしまいました。
例えば、各種検査を行なっても何も異常も認められないものの、様々な症状を訴える患者さんに対しては、原因がわからないので治療をすることに難渋してしまいます。
このように西洋医学だけでは十分な治療ができないことがあるという認識のもと、近年再び漢方治療が注目されてきています。

では、我々の行なっている治療(和漢診療)と江戸時代まで行われていた伝統的な漢方治療とはどこが異なるのでしょうか?
現在、我々のように和漢診療科に所属している医師は、当然のことながら日本の医師国家試験に合格しており、ある程度の西洋医学の研修を行っています。つまり、漢方治療の良いところと西洋医学の良いところの両方を知っている医師が診療に従事しているということです。したがって、目の前の患者さんにはどちらの治療の方にメリットがあるのかを考え、治療にあたっています。
例えば、高血圧や糖尿病の治療には、漢方薬よりも西洋薬の方が優れているので、漢方薬のみで治療をすることはせずに、降圧薬や血糖降下薬を使用することを優先します。当院には西洋医学の様々な専門家がおりますので、専門的な西洋医学的アプローチが必要と考えられるときには専門医に紹介していますし、当科でも西洋薬と漢方薬を併用して治療することもあります。

また、漢方薬には副作用がないと思われている方もいるかもしれませんが、時には肝機能障害や間質性肺炎などの重大な副作用が起きることもあります。したがって、定期的に採血などの検査を行ったり、他院での検査結果を参照するなどして、我々は西洋医学の知識を総動員することで、副作用の早期発見を心がけています。以上のように、和漢診療科では西洋医学の知識をベースに漢方治療を行っており、この点が江戸時代との大きな違いです。なお、漢方治療にあたっては、漢方薬のエキス製剤と煎じ薬を使用していますが、どちらを使用するかは患者さんと相談してから決定しています。
いずれも自費ではなく、健康保険が適応されます。

次に、実際の外来では我々がどのような診察をしているかについて、具体的にご紹介してみましょう。
我々は患者さんから話を聞くだけではなく、必ず脈・舌・腹の診察をします。この中でもお腹の診察は日本で独自に発達した診察法で、現在中国ではほとんど行われていません。患者さんを診察して得られた症状や所見などの様々な情報を、陰陽虚実・気血水・五臓などの漢方独特の考え方で解析し、患者さんの漢方医学的な病態(これを漢方用語で「証」と呼びます)を把握します。そして、これにあった最適な漢方薬を処方しますが、これを「随証治療」と呼んでいます。
この「随証治療」こそ、我々漢方専門医の得意とするところです。実際、西洋医学的には異常がなくても、漢方医学的には異常があるということはしばしば認められます。
我々漢方専門医は「随証治療」を行うことで、西洋医学的には治療が難しい患者さんにもアプローチすることが可能です。

当院は西洋医学だけでなく、和漢診療も行なっている日本でも数少ない病院の一つです。和漢診療を取り入れることで、患者さんにとって最良の医療を提供していきたいと考えています。
今まで色々な病院等で治療を行っても症状の改善が認められない方は、是非和漢診療科を受診されることをお勧めいたします。

お知らせ一覧に戻る